経営の神様と言われる松下幸之助。ずば抜けた経営センスがあって会社を成長させることができたのだと思っていました。
もちろん、そうなのでしょうが、本人曰く、それだけではないようです。自身の成功の理由をこう語っています。
「人は、松下さんは成功した、結構ですなと言うてくれる。なぜに成功したんですかと、よう訊ねられるけれども、どうして成功したのか、わしにも分からん(笑)。
いい部下に恵まれたこと、贔屓にしてくださるお客様が、たくさん出来たこと。世間様が、好意的に見てくれたこと。そういうことやろうなあ。
だから、今日のわしの成功は、部下とお客様と世間様のお陰やな。成功の理由はそれやな。ありがたいことや。(松下幸之助はなぜ成功したのか、江口克彦著、東洋経済新報社)」
こう言うのは簡単です。言うだけなら簡単です。大事なのは本当にそう思っているのかどうかです。
松下幸之助は本当にそう思ってたかどうか、本人しか知りえませんが、私は本当にそう思っていたのではないかと思いますね。
こんなエピソードもあります。
昭和53(1978)年の経営方針発表会のときのことです。その年は松下電器の創業60周年で、松下は会場の社員に対して、会社の発展は皆のお陰だとお礼の言葉を述べた後に壇上から降り始めました。
松下の話が終わったと会場の皆が思って、松下がそのまま降りるのかと思っていたところ、松下は途中で立ち止まったのです。
そして、なんと、会場の一万人の社員に向かって深々と三度も頭を下げたのです。会社の発展は社員のお陰だと頭を下げたのです。一度ならず三度も。
あの松下幸之助がですよ!驚きませんか!?
一万人の社員に向かって、創業者である松下が深々と頭を下げる、すごい画ですよね。会場は異様な雰囲気になったそうです。
そりゃあ、なりますよね。
その姿を見た社員は、これからも会社のために頑張ろうと思ったでしょうね。
会社の発展は自分の頑張りによるものだ、と思う社長は多いでしょう。特に中小企業においては、実際にそうだと思いますし、自負してもいいと思います。
ただ、自分だけが頑張ったと思ってしまうと、態度に出てしまいます。社員に対して横柄な態度を取ったりしてしまうでしょう。
そんなことで社員はやる気を出すでしょうか?会社のために頑張ってくれるでしょうか?
社長が満足するような働きをしてくれる社員がもしかしたらいないかも知れません。むしろ、給料泥棒だと思う社員もいるでしょう。社員に感謝できるはずがない、という気持ちも理解できます。
そうは言っても自分ができないことがあって、社員の手を借りているのも事実でしょうから、その部分だけでも、社員の頑張りも認めてみてはどうでしょうか。
そして、時には感謝の気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、今まで以上に社員が頑張ってくれるかも知れません。あるいは、社長の頑張りに気づいてくれるかも知れません。
本当は自分の頑張りは脇に置いて、純粋に社員に感謝の気持ちを持ち、それを伝えた方がいいと思います。
それが出来なくてもいいので、自分の頑張りで会社が存続しているという自負を持ちつつ、社員が頑張っている部分だけに焦点を当てて、社員への感謝の気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか。